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県道を疾走する自転車

ペンネーム:ドライバーさん


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私が家族旅行をしたときの話。夜、先ほどまで眩いばかりに晴れていた空は、太陽が沈むと同時に小雨になった。山の天気は変りやすい。県と県とをまたぐ、標高の高いその道は小雨の影響か、霧が発生した。主人の運転する車は、一寸先を見るのにもライトを最大の光度にしないと、先が見えないほど濃かった。うねうねと急カーブが続く県道に沿って連なる樹木から、枝が道へ道へと伸びており、霧を透かして見るそれは、老婆の痩せこけた腕のようで気味が悪い。

私は早く県道を抜けないかと思いつつ、ただ黙って霧に染まる窓の外を眺めていた。
――と、何度目かの急カーブを曲がったところで、サイドミラーになにかが映った。私たちのあとからやってきた車が追いついてきたのかと思い、そのままサイドミラーに映る道を眺めていると、霧の中からそれは現れた。自転車だった。

子供用のスポーツ自転車。青いヘルメットを被った、血の気のない真っ青な顔をした少年が乗っていた。年は10才くらいだろうか。やや、うつむいているため表情を伺い知ることはできない。自転車は私たちの車と一定の距離を維持したまま、追ってきている。こんな薄暗く霧が出ている日に、子供がひとりで県道を疾走している。少し妙に思ったが、そういうこともあるかとひとり納得しつつも、視線はその少年から外さなかった。

その時、また急カーブに差し掛かり、車は減速した。少しきつめのGが車内にのし掛かり、やがてやって来たときと同じように忽然と去っていく。カーブを抜け、主人がアクセルを踏み込んだ。車が速度を上げていく。また、サイドミラーを見る。と、先ほどの自転車が近づくでもなければ、遠くにいるでもなく、カーブを曲がる前と同じくらいの距離を維持したまま、追ってきていた。どういうことだろう。車は直線に差し掛かり、速度をぐんぐん上げている。子供が漕ぐ自転車で、果たしてずっと同じ位置で車を追えるものなのだろうか。

身を運転席の方に傾け、速度計を確認すると、時速50Kmを示していた。……そんな、バカな!
いくら自転車とはいえ、時速50Kmで走る車に追いつけるはずがない。ましてや、自転車を漕いでいるのは、まだ年端もいかない子供だ。思わず身がこわばる。両手をきつく握り締めた。主人に言おうか? いや、ここでもし、そんな得たいの知れない者が自分たちを追っていきているなどと知らせたら、事故でも起こしそうな嫌な予感が脳裏をよぎった。主人の様子を見るに、怯えているような様子はない。おそらく、私にしか見えていないのだろう。

しばらく、サイドミラーを見ないようにうつむいていた。が、次第に霧のせいでそんなおかしな者が見えたのではないかと、見間違いではないかと思えるようになってきた。確かめたい。私は三度、サイドミラーに目をやる。
いた。今度は先ほどより車と自転車との間が詰まっていた。

自転車を操っている青白い顔の少年は、私がその存在に気づいたのを見越したかのように、さも楽しげにニコニコとサイドミラーへ笑いかけていた。サイドミラー越しに、目と目が合う。たまらない。視線を外そうと思うのだが、逸らすことができない。自転車はどんどん速度を上げて、車間を詰める。その常識では考えられない有様に、目を見張った。

少年は目を細くして、口角をつり上げて追ってくる。まるで、
「逃がさないよ」
とでも言っているようだ。とうとう自転車はトランクへ手を伸ばせば届きそうなところまで、接近していた。来ないでくれ!
瞬間、眩い白光が視界を奪う。対向車とすれ違ったのだ。白光は右から左へと、流れていく。

サイドミラーへ目を戻すと、あの自転車は今度は、さっきすれ違った対向車を追っていた。やがて、対向車も自転車も霧の向こうへ見えなくなると、やっと胸をなで下ろした。冷や汗が背中を湿らせている。
果たして、あのまま車に追いつかれていたらどうなっていたのか、あの対向車はその後どうなったのか、それはわからない。

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