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バスターミナルの赤い女

ペンネーム:バスさん


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仕事帰り。バスターミナルでバスを待っていた時のお話です。このバスターミナルには、たくさんのバスが発着しており、その日もバス停は大変混雑していました。私は見るともなくぼんやりと他のバス停の様子を伺っていました。

丁度、道路を挟んで対岸のバス停にバスが到着します。扉が開き、帰路を急ぐ人たちがバスに乗っていく中、ひとりの女性に目が吸い寄せられました。黒髪を肩の辺りに切り揃え、ややうつむき加減の女性の表情は、よくわかりません。

それは、髪が邪魔して表情が見えないといよりもっと妙な感じで。まるで彼女の顔の辺りだけ、影が射しているそのような感じなのです。服装は派手な赤。その人は、足を引きずるように車内を歩きながら、一番前の一段高くなっている座席に座りました。

派手な服装に反して、陰鬱な雰囲気を持つ女性。その相反する雰囲気が妙に気になってしまったのです。
――と、バスがずしりと巨体をゆすり、ロータリーをゆるやかに通っていきます。そして、女性はネオン街へバスと共に消えて行ったのでした。

見るものがなくなり、私はバス停へ視線を戻します。愕然としました。バスが行った後のバス停に、ひとり女性が立っています。顔に影が射しており、服装は派手な赤。いま行ってしまったばかりのバスに乗っていたはずのあの女性です。

たしかに乗車したはずのあの女性が、いつの間にかバス停に戻ってきているのです。この世の者ではない。そう気づいた瞬間、全身があわ立ちました。改めて、女性をよく見れば、彼女の枯れ枝のように線の細い身体は、ぼんやりと透き通っているではありませんか。

――と、女性がにわかに身じろぎしました。まるでスローモーションの映像を見ているかのように、ゆっくりと女性はこちらに向き直ります。私は視線を逸そうとするのですが、気持ちに反して目はしっかりと彼女を捉え続けます。

やがて、こちらへ完全に向き直った女性は、やはり緩慢な動作で、顔を上げ始めました。靄のように透き通った彼女の髪の毛にうっすらと、薄紫色のネオンが反射しています。影が射していた顔が徐々に明るくなっていきます。

ほっそりとした顎が、真っ赤な唇が、そして鼻筋があらわになり、彼女と視線が合うその瞬間。視界が遮られました。私の乗るバスが到着したのです。息を詰めていた私は、ほっと大きく呼吸をし、バスに乗りました。

途中、足がもつれてしまい、転びそうになりながら、後部座席に座りました。もちろん女性の姿が見えない席へ。いつの間にか、冷や汗をかいていたようで、車内のクーラーが異常に強く感じました。良かった。あのまま女性と目が合っていたらどうなっていたことか。

私は幾度も深呼吸をします。バスがずしりと揺れ、ロータリーをゆるやかに抜けていきます。何の気なしに、私がバスを待っていたバス停に目をやると、あの真っ赤な女性がいつの間にか立っていました。私を見送るように、口元に微笑を象りながら。

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