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談笑

ペンネーム:いちごちゃんさん


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まだ幼稚園に通っていた子供のころ私の一家はとある一戸建てへ引っ越してきた。この家へ引っ越してきてから私のお気に入りの場所というのが、二階へと続く階段だった。二階から数段下った段差に意味なく腰掛けて――実際なぜその段差に腰掛けていたのか覚えていない――ぼんやりと空中を眺めていた。

幼稚園のころだからおもちゃを手に部屋で遊んでいるのが一番のはずなのだが、なぜか私は毎日のようにその段差へ腰掛けては家の壁を見つめるのが日課だった。引っ越してきてからどれくらい経ったのか覚えてはいない。が、いつからか私のうしろの三人の男が立つようになっていた。生憎、彼らの姿をしっかりと見てはいない。

うしろを振り向いても当然誰もいないし、足音がするわけでもない。ただ脳裏に映るスクリーンには、彼らが私を取り囲みじっと見つめているのがわかる。そして、なにより彼らを身近に感じる最大の原因は声だった。彼らは私が階段に腰掛けると、さっと私を取り囲み、つぶやくのだ。

子供がなにかイタズラを思いついて、仲の良い友達に耳打ちするように。とても愉快そうに。なにをささやいているのかは聞き取れない。いや、聞き取れていたもかもしれない。が、もはや内容はまったく覚えていない。ただ彼らが私を取り囲み、押し殺したようなくぐもった声が永遠と続くのが、怖くて怖くてたまらなかったのを鮮明に覚えている。

耳をふさぎ、目をふさいでも、声は耳の中から響くように聞こえてくるし、彼らの姿は脳内のスクリーンへ浮かび上がる。鳥肌が立ち、喉がカラカラに乾いても、私は両親に呼ばれるまでじっとその階段で一日を過ごすのだった。ある日、幼稚園の送迎バスに送られて家の近所まで帰ってきた時のこと。私はいつもどおりの帰り道をとぼとぼと歩いていた。

角を曲がり家の玄関が見えると私はその日に限ってなぜか駆け出してしまった。これがまずかった。家の前の道を丁度、白塗りのセダンが通りかかったのである。幼い私は、左右の確認を怠り車の前に踊りでる。

迫ってきた車は私の姿を確認すると慌ててブレーキを踏み込んだ。細い道路だったので、それほど速度が出ていなかったとはいえブレーキをかけるには遅すぎる。車の甲高いブレーキ音が辺りに響き渡った次の瞬間には、私の体と車は接触した。年端のいかない子供だった私は簡単に道路に転がった。だが、不思議なことに痛みはなかった。

驚きはしたものの、まるで道端の石ころにつまづいた時のように、ケロッと私は立ち上がり、家へと駆け込んでしまったのである。慌てて降りてきた車の運転手はその光景に、面食らっていた。私が自分の家へ入って行くと、その後を慌てて追いかけてきて、母に事の顛末を説明していったらしい。

母は大変驚き、私にケガはないのかしきりに尋ねたが、かすり傷ひとつ見つからなかった。それも当然のことだと当時の私は、なぜかわかっていた。というのも、車にはねられるその瞬間。いつも階段のところで私を取り囲んでいた男たちが颯爽と現れ、私の腕を自動車とは反対の方向へ強く引いた気がしたのである。私が道端へ転んだのは、その男のせいであった。

その後も、私はこの家を後にするその日まで、例の階段に座り込んで、男たちの談笑を聞いていた。彼らがなにもので、一体なにを語りかけていたのかわからない。しかし、大人になったいまでも時折、彼らが私に話しかけているようなそんな気配がするときがある。幼稚園生の私が車にはねられたその日の夜のことだった。私の腕に赤い大きな手形を浮かんでいるのに気づいたのは。

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