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病院のエレベーター

ペンネーム:不思議さん


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祖父が入院することになったので、母と病院に行った。さいわい祖父の病状は軽かったのだが、数日入院する必要があった。母は入院手続きをするため受付に行ってしまい、私はひとり待合所で待つことになった。

待合所には誰もいない。時折、医師や看護師が通っていくだけだ。待合所の左手にエレベーターがある。私は何となくエレベーターの扉をながめていた。すると、エレベーターの扉が開いた。エレベーターから降りる人は誰もいない。誰も乗っていなかったからだ。降りる人もいなければ、乗る人もいない。誰もエレベーターを呼んでいないのだ。それをながめていて、私は、きっと誰かがボタンを押し間違えたか、イタズラでもしたのだろうとそう思った。やがて、エレベーターの扉は閉まった。

それでも、特にすることもないので、エレベーターをそのままながめていた。――と、また、エレベーターの扉が開いた。やはり、さっきと同じで、降りる人もいなければ、乗る人もいない。外からエレベーターを呼んだ人もいない。間違いない。私はずっとエレベーターを見ていたのだから、エレベーターを呼ぶ人がいれば視界に入る。とすると、中から開けたのだろうか。しかし、エレベーターの中は空っぽ。私はこの時、恐怖を感じた。エレベーターは閉まった。数十秒後、またエレベーターは勝手に開いた。やはり、誰も乗っていない。これは一体どうしたことだろう。私は自分の目を疑った。誰か目に見えない人が、中からエレベーターを開けたり、閉めたりしているとは考えたくない。エレベーターは私が困惑するのを楽しんでいるかのようだった。そして、静かに扉を閉めた。私はエレベーターに釘付けになった。

廊下の先から医師と看護師二人が台車を押して近づいてきた。台車の上には、人が寝かされている。よっぽど重病なのだろう。点滴の薄緑色のチューブが、入院患者の腕につながっていた。医師と看護師は、例のエレベーターの前に立つと、エレベーターを呼ぼうとボタンに手を伸ばす。その時、エレベーターの扉がまた開いた。まだ、エレベーターのボタンを押す前である。しかし、医師は、
「ああ、そうか。そうだったな」
とエレベーターが勝手に開くことがさも当りまえのことのように、看護師に言うのである。看護師も別段顔色を変えない。二人は台車をエレベーターの奥まで押し込んで、自分たちも乗り込み、扉を閉めた。医師の言葉を聞いて、私は決してそのエレベーターに近づかなかった。

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