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バス待ち

ペンネーム:小学生さん


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幼いころ、親からよくおつかいを頼まれました。そのおつかいへ行く道の途中にバス停があります。人の往来の激しい、にぎやかな道です。そのバス停には古い木のイスがいくつか並べられているのですが、そのイスにいつも座っている老婆がいました。子供のときはその老婆のことを幽霊だとは思いませんでしたが、いま思い返してみれば、あれはこの世の者じゃないことは明白でした。

まるで時代劇に出て来るような古くさい着物をきていたし、足下も雪駄(せった)履き。始終、伸び放題の白髪をこちらへ差し向けているので、顔は全く見ることができませんでしたが、ただ、すり切れて生地のうすくなった袖から伸びている枯れ枝のような細腕が、異様に不気味だったのをよく覚えています。

その老婆は誰かを待っているかのように毎日、そのイスに座って身じろぎひとつしませんでした。私はそんな老婆の様子を目の端で眺めながら、気味が悪かったものでした。ある日、家族にその老婆の話をしましたが、やはりというべきか、誰もあのバス停でそんな人物を見たことはないそうです。その話をした日の夜は、まんじりともできませんでした。

最後にその老婆を見かけた日。いつものように私が彼女の傍らを通りすぎようとすると、その日に限って、老婆の身体がかすかに動きました。次いで、耳に聞こえてきた衣ずれの音。私はハッとして、初めて老婆を直視すると、彼女は老人とは思えないほどの勢いで立ち上がり、袖から生えている細腕をめい一杯グーッとこちらへ伸ばしてきました。老婆は真っ直ぐ私を見ているはずなのに、なぜか顔は真っ黒なヴェールで覆われているかのように、真っ暗でした。

私は声も上げられず、その場で目をつぶりました。走りだそうにも、脚が震えて動けません。
もうダメだ!
それから、30秒ほど過ぎました。なにも起きません。恐るおそる目を開けると、もうそこには老婆の姿はなくなっていて、ただ、バスの大きな車体が私の前を通りすぎて行っただけでした。

それが老婆の姿を見た最後の日になりました。そのバス停はいまもあります。老婆はあの日を契機にいなくなったのか、それとも私にだけ見えないだけで、まだ誰かを待っているのでしょうか?

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